《コラム》従業員の介護離職を防ぐには

◆介護離職にまつわる動向
 今後予定される育児介護休業法の改正の中で、仕事と介護の両立のさらなる実現に向けて、事業主の義務が強化されることが見込まれています。強化の背景には、介護離職が社会問題となっている一方で、法制度上の両立支援制度が十分に利用されていない実情があります。東京商工リサーチの調査によれば、介護離職者の54.5%が、「両立支援制度を利用していない」と回答しています。人手不足が深刻な問題である中小企業こそ、中心メンバーである従業員を介護離職で失うことは、大きな経営リスクになりかねません。改めてこの問題を考えてみましょう。

◆両立支援制度を利用しない理由
 なぜ、介護離職者の半数以上が、両立支援制度を利用していないのでしょうか。令和3年度の厚生労働省の委託調査によれば、最も多い原因は「勤務先の問題」で、その中でも、「両立支援制度が整備されていなかった」の回答が約6割となっています。そもそも介護休業制度が整備されていないなどの根本的な問題であれば、早急に整備する必要がありますが、より深刻なのは、自社に制度が整備さているにもかかわらず、介護離職が起きてしまうことです。
 これには、「従業員の制度に対する誤解」や「プライベートな問題でもあり企業が実態を把握するのが難しい」などの原因が考えられます。

◆自社に必要なことを考える
 育児介護休業法における、介護休業の日数は93日です。誤解が多いのですが、この期間は、従業員自身が介護をすることを目的に、設けられたものではありません。あくまでも必要な介護に関して、行政機関や民間サービス会社などに相談したり、介護に必要な申請をしたりするための期間として設けられたものです。
 これらを踏まえて、企業としては従業員がまずは職場内で相談できるような環境を整備すること、また、その前段階として、プライベートな側面が大きい問題であっても、相談しやすいように日頃から従業員との円滑なコミュニケーションを図るなど、自社にできることを考えてみてください。もはや介護の問題は、従業員個人の問題だけではありません。企業の介護支援は、福利厚生を超えた重要な人事戦略となっています。

《コラム》求人時の労働条件

◆労働条件の明示義務
 2024年4月から、労働条件の明示義務について、その範囲を広げる労働基準法施行規則の改正が施行されていますが、当該明示義務は、職業安定法(以下「職安法」)にも規定があります。求人を行おうとする者は、求人の申し込みをするにあたり、求職者に労働条件を明示しなければならないことになっています。明示すべき労働条件の内容等については、今回の労働基準法施行規則の改正に合わせ、就業場所の変更の範囲、従事すべき業務の変更の範囲等が追加されています。(職安法施行規則4条の2第3項を参照)

◆求人時の労働条件を巡るトラブル
 求人票等に記載された労働条件と異なる労働条件が、その後面接等の採用過程で提示された場合には、しばしばトラブルとなることがあります。この場合に争点となるのは、求人票等に記載された求人時の労働条件は、「あくまでも見込みにすぎない」のか、あるいは、「労働契約の内容になるのか」です。この点での従来の裁判例の判断は、「求人時の労働条件は原則として労働契約の内容となるが、賞与や昇給等、事業の業績や経済情勢の変動等の不確定要素に大きく左右されることが明らかであるものは例外」とする判断がある一方で、求人票等の記載内容にもう少し強い効力を認める判断がされるものがあり、近年の裁判例でも「求人票の労働条件を重視する判断」が多く見られるようになっています。つまり、求人票等による求人時の労働条件と、実際の労働条件が異なる場合には、裁判所は労働者に有利な解釈をする傾向にあります。

◆求人時における労働条件明示の注意点
 特にトラブルが起こり得るのは、賃金についてです。労働者にとっては、最も関心が高い労働条件である一方、企業にとっては採用前の段階では、具体的な金額を明示することが困難であるからです。トラブルが起こり得るのは、賃金には限りませんが、ここで重要なことは、「企業側が労働者(求職者)に誤解を生じさせないこと」であり、求職者が誤解を生じないように、求人票等での的確な記載や面接等での丁寧な説明が必要になります。

《コラム》Facebook、Google、LINEヤフー、ネット広告の消費税課税

◆登録番号の記載はどこだ
 インボイス制度が始まってから、レシート等の内容を確認するに際し、真っ先に登録番号の有無に目が行きがちな経理パーソンは少なくないと思われます。
 取引を経理計上する際に、それが消費税の課税対象取引なのか、また適格請求書発行事業者なのかの判別と確認が必要です。
 外見上取引内容が同じに見えても、よく見ると中身が違う場合にはきちんとした切り分けが必要となります。

◆そのインターネット広告の役務提供者は誰
 Facebookを眺めていると表示されてくるSNS広告がFacebook広告、パソコンで何かを検索したらそのあとに何だか関連した分野の広告が表示されるのがGoogleなどのネット広告です。FacebookもGoogleも元々アメリカの会社だし、2015年に税制改正のあった例の「国境を越える電気通信役務の提供」の話でしょ、となりそうですが、その広告の請負業者が誰なのか、によって支払い側の消費税の扱いが変わってきます。
 2024年7月1日現在、Facebook広告を提供しているのはMeta Platforms Ireland Limitedという国外事業者で、請求書にはリバースチャージの対象となる旨の注記があります。一方、Google広告はグーグル合同会社(登録番号T1010401089234)、YahooはLINEヤフー株式会社(登録番号T4010401039979)という日本の会社が提供しています。こちらは通常の方法での仕入控除となります。

◆Facebook広告代金の消費税の扱い
 日本の会社がFacebook広告のサービスを受けて支払う対価は、リバースチャージ方式の対象となります。リバースチャージ方式は、役務提供をした国外事業者に代わって、役務の提供を受けた国内事業者が申告納税をする仕組みです。ただし、①一般課税で、かつ、課税売上割合が95%以上の課税期間と②簡易課税制度が適用される課税期間については、当分の間、「事業者向け電気通信利用役務の提供」(特定課税仕入れ)はなかったものとされ、「特定課税仕入れ」として申告する必要はなく、また仕入税額控除の対象にもなりません。
 そのため、リバースチャージ方式で申告をする必要があるのは、一般課税で課税期間の課税売上割合が95%未満の事業者に限られます。こちらの申告は少し面倒なので顧問税理士にお任せしましょう。

《コラム》宅地と隣接する駐車場の評価単位

 相続で土地を評価する場合、土地をどこで区切るかを決めなければなりません。
 評価のために区切られる土地の1つ1つを評価単位と言います。評価単位を決める基本ルールは、次のものとなります。

◆土地は地目ごとに区分される
 土地は用途によって、「宅地」「田」「畑」「山林」「雑種地」などの地目に区分されます。「宅地」は、建物の敷地及びその維持若しくは効用を果すために必要な土地とされます。「雑種地」は、どの地目にも属さない土地とされ、駐車場の敷地は「雑種地」となります。
 土地は地目別に評価するのが原則ですが、一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合、そのうち主たる地目からなるものとして評価します。

◆宅地や雑種地は利用の単位ごとに評価する
 宅地は利用の単位となる1区画の宅地(1画地の宅地といいます)ごとに評価します。
 同じ土地に居宅と隣接する自家用の駐車スペースがある場合、駐車スペースは自宅の維持・効用を果たすために必要なものとして、敷地全体を「宅地」として自用地評価します。
 マンションとマンションの住人だけが利用する隣接の駐車場の場合も同様に、敷地全体を「宅地」として自用地評価します。
 商業施設に併設する駐車場の敷地は、商業施設と一体利用されるので「宅地」として自用地評価します。

◆土地の評価に他人の権利が及ぶ場合
 土地を他人に使用させる場合は、土地の評価には他人の権利が及びます。
 賃貸アパートや賃貸マンションの敷地は、住人の権利が及ぶため、貸家建付地として評価します。
 賃貸アパートや賃貸マンションに隣接する駐車場は、アパートやマンションの住人だけが使用する場合、建物と駐車場の土地は一体利用されているので一画地の宅地となり、全体を貸家建付地として評価します。

◆月極駐車場を経営する場合は自用地評価
 土地所有者が自身で月極駐車場を運営する場合は、車の保管を目的とする行為とされ、賃貸借契約とは本質的に異なる契約関係となります。この場合、土地評価に利用者の権利は及ばず、自用地評価となります。
 なお、コインパーキングなど駐車場事業者に土地を賃貸する場合は、その事業者の権利が土地に及びますので減価されます。

《コラム》従業員の育休取得時の対応

◆問題の背景
 育児・介護休業法については、令和4年の4月と10月に改正が行われたのに続き、今後も性別を問わず、育児休業を取得しやすくするための改正が予定されています。
 一方で、多くの企業で人材不足の悩みは深刻で、従業員が育児休業を取得した場合の業務の代替をどうするかなど問題が残されています。とは言え、育児休業の取得は労働者の権利であり、企業は原則として拒むことはできません。従業員が育児休業を取得している間の業務の代替に関しては、早急に検討する必要があると考えられます。

◆体制整備について
 従業員が育児休業を取得する際の体制整備については、大きく2つのポイントが考えられます。①取得のパターンごとに留意すべき点があること。②どのパターンで取得しても困らない体制づくりを目指すこと。令和4年4月及び10月の改正によって、育児休業を取得するパターンが多様化しています。それぞれのパターンでの取得に応じた体制整備が必要になります。いくつか例を挙げてみます。
(ア) 連続した日数を長期間取得する場合
 子供が出生後1歳に達するまで育児休業を取得するケースなどがあたります。休業が長期間となる場合には、1年間の業務を見据えた対応が必要になり、早い段階での業務の引き継ぎや、業務を代替する要員が長時間労働になり不満やストレスが溜まらないよう、可能な限り複数人数で分担することなどが望ましい対応と考えられます。
(イ) 短期間や分割で取得する場合
 令和4年4月及び10月の改正では、「出生時育児休業制度の創設」など、男性が育児休業を取得しやすくするための改正が、数多く行われました。このことにより、男性が2週間程度の育児休業を取得したり、休業を数回に分けて取得したりするケースが増えています。このケースでの注意点は、出生時育児休業を取得しようとする従業員は、原則として2週間前までに職場に申し出ればよいことになっているため、業務の引き継ぎが必要な場合には、引き継ぎを短期間で行わなければなりません。このような事態を避けるため、事前に制度についての個別周知を行い、早めに本人の意向を確認する必要があります。

《コラム》社会保険適用拡大回避について

◆令和6年10月より社会保険適用拡大
 社会保険の適用拡大とは短時間労働者の社会保険の加入対象を拡大する制度改正です。今まで2度制度拡大され最初は被保険者500名以上企業、2度目は100名を超える企業に、そして令和6年10月に50名を超える企業に適用されます。適用基準は
・週の所定労働時間が20時間以上
・所定内賃金が8.8万円以上
・昼間学生でないこと
・雇用期間が2か月以内に限られていないこと

◆適用拡大を望まない人もいる
 対象者となった方の中には社会保険の加入を嫌う短時間労働者もいます。配偶者の扶養に入り保険料を払わずに適用を受けている3号被保険者に該当する場合です。自ら社会保険に加入すると健康保険料と厚生年金保険料を負担することになるので手取りは減るでしょう。
 また、配偶者(夫)の会社の配偶者手当の条件が扶養に入っていることとなっていると、配偶者の給与から手当が外される場合もあります。つまり世帯年収が減少します。こうした状況を不利益として加入を避けようとする動きがあります。

◆転職か労働時間の短縮か
 新たに社会保険に加入することを避ける方法は加入者の少ない事業所に転職するか、今の会社に相談して1週間の所定労働時間を20時間未満とすることですが、そのために転職して不慣れな職場に就いて慣れるようにするのか、また、現在の労働時間を週20時間未満にすれば雇用保険からは抜け、今まで払ってきた雇用保険料は無駄になりますし退職しても雇用保険は受け取れません。現在、社会保険適用拡大は今後も従業員数に関係なく進める案が検討されています。

◆メリットもあり
 加入により国民年金だけよりも将来受け取る年金額が増えることは明らかです。健康保険も傷病手当金や出産手当金も受けられます。会社は対象となる方には個別説明が必要です。負担する保険料額や配偶者の給与が変化する点も説明が必要でしょう。
 キャリアアップ助成金の年収の壁対策「社会保険適用時処遇改善コース」の利用等も検討してみてはいかかでしょう。

【時事解説】経営者保証解除のために経営者側に求められること その2

 経営者保証がなければ、カネを貸す金融機関の返済財源は会社財産に限定されます。会社財産及び損益の状況は決算書で表示されます。融資する金融機関としては決算書が最も重要な与信判断資料となりますから、決算書が正確でなければ困ります。適正でない決算書を提出され、それに基づき融資を行えば、だまされたことになります。そして、その会社が倒産してしまえば、金融機関はその責任を決算書の作成責任者である経営者に求めるのは当然です。経営者保証の解除は経営者に決算書の適正性をより強く要求します(当然ですが、決算書を意図的に改竄する粉飾決算などは論外です)。

 経営者保証の解除は経営者にとって望ましいことですが、経営者側にも相応の責任が求められることを忘れてはいけません。上述した、公私のけじめと適正な決算書の提出は、経営者保証解除のための最低限の要件だと思います。

 逆に言えば、その責務を誠実に履行している自信があれば、取引している金融機関に対して堂々と経営者保証の解除を要求することができると考えます。その上で、会社が倒産して、カネを貸している金融機関に焦げ付きが発生したとしたら、金融機関はその責任を自らの貸し手責任として引き受けるべきでしょう。そうなってしまったら、経営者も金融機関も採算性の悪い事業には早期に見切りを付け、新しい事業の開拓に向かう方が日本経済全体としてもプラスになると思います。

 そのためには、金融機関側は担保や保証は多ければ多いほどいいという発想を捨て去ると同時に、経営者側も経理と決算の透明性を確保することが不可欠なのです。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】経営者保証解除のために経営者側に求められること その1 記事提供者:(株)日本ビジネスプラン

 金融庁は、会社の借入金について経営者が弁済を保証する経営者保証の縮小を進めています。
 経営者保証に内在する問題の主なものが金融機関側にあることに異論はないにしても、保証を提供する経営者にまったく非がないかといえば、そうとも言い切れません。経営者側にも改善すべき点は存在します。そこで、今回は経営者側の問題点とその対応を考えてみたいと思います。

 本来、法的には会社と経営者(主として社長になると思います)は別人格ですから、会社の借入金の弁済を経営者が保証するというのは、筋が通っていません。にもかかわらず、金融機関が経営者に保証を求めるのは、保証なしの融資には金融機関に不安があるからです。ですから、経営者の側も、経営者保証を外すためには、金融機関の不安を払拭させる努力をしておかなければなりません。本稿では、そうした観点から、経営者側の改善事項として、会社勘定と経営者個人勘定の明確な分離と適正な決算書の作成の2点について指摘しておきたいと思います。

 会社の株式の大部分を所有する経営者であれば、個人的な利得を図るために会社を恣意的に利用することは不可能ではありません。例えば、ほとんど働かない家族を役職員にして、給与を支払ったり、私的に利用する家や自動車を会社で所有したりして、正当な報酬や配当とは別に会社から資金を不当に引き出すような行為です。こうしたことが積み重なり、会社が倒産すれば、会社にカネを貸した金融機関が、不当に会社から蓄財を行った経営者個人に弁済を求めようとするのは、無理もないことです。ですから、経営者は金融機関にそうした不信感を抱かせないように、公私のけじめをしっかり付けておくことが求められます。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

《コラム》換地と保留地

 登記簿に「換地」や「保留地」と記載される宅地は、土地区画整理事業の実施によって新しく整備された土地です。一般の土地と同様に用途地域の指定等に従って建物を建築できます。

◆換地処分で土地の利用価値は高くなる
 土地区画整理事業は地権者、地権者の作る組合や地方自治体などの公共団体が施行者となります。地権者は自身の土地を施行者に提供し、代わりに区画整理された新たな土地を取得します(この土地を換地と言います)。提供された土地の一部は、新たに道路や公園などの公共施設となり、また売却して事業資金に充当されます(この土地を保留地と言います)。換地処分後の土地の面積は、従前より小さくなります(これを減歩といいます)が、土地は整形され住環境が改善されますので土地の利用価値は事業を実施する前より高くなります。

◆換地と保留地の評価
 土地区画整理事業が施行される土地の評価は、造成工事の進行状況によって変わります。仮換地が指定される場合は、仮換地に接する道路の路線価等によって評価します。仮換地の造成工事が施工中で工事完了まで1年を超えることが見込まれるときは、仮換地の造成工事が完了したものとして評価した価額の95%相当額で評価します。
 ただし、仮換地に障害となる物があるなど特別の事情で使用収益を開始できる日が別に定められ使用収益を開始できないとき、仮換地の造成工事が行われていないときは、従前の宅地の価額で評価します。
 換地処分が完了すると、換地や保留地として登記簿に登記されます。換地も保留地も一般の土地と同様に路線価等により評価します。路線価には換地処分によって利用価値の高まった部分が反映されています。

◆用途地域や土地の境界を確認する
 土地区画整理事業が完了すると、登記簿の表題部には、その土地が換地処分された土地である旨と換地処分の日付が記載されます。
 土地区画整理事業の施行区域は、市区町村のWEBで公開されています。事業の詳細は市区町村の都市計画課で確認できます。用途地域の指定等による建築制限の内容を確認し、施行区域の換地図と公図、測量図をもとに、宅地の形状と隣地との境界標の位置を確認します。実際の宅地の形状や利用状況、境界標の位置については、現地を実査して確認しましょう。

《コラム》実務で使える就業規則とは

◆就業規則の問題点
 「就業規則を作ったのに実務で使えない」と感じたことはありませんか。例えば、就業規則に定めた解雇事由や懲戒事由に該当するとして行った解雇処分や懲戒処分について、労働者が不服として労働基準監督署に申告をし、又は、裁判になった場合、会社が不利になったり負けたりということが少なくありません。会社としては、「ただ就業規則の記載に沿った処分をしただけなのに」という感想を抱いてしまいます。
 この問題の原因が、就業規則の内容にあることは多いです。現状の日本の労働法制では、法律の表現には抽象的で画一的なものが多く、具体的な考え方や判断基準はこれまでの膨大な量の裁判例が蓄積されたものから成り立っているからです。つまり、就業規則の内容も、法律の文言に沿った表現での記載だけでは足りず、過去の裁判例を踏まえた具体的な内容にしなければ、実際の労務トラブルに対応できなくなってしまうのです。

◆主な原因は2つ
 抽象的な法律表現による就業規則と、裁判例を意識した内容の就業規則との違いは、次の2つの視点が意識されているかいないかに大きな違いがあります。この2点の意識が薄い就業規則に沿って、会社の行為が行われた場合には、会社に不利な結果になることがあります。
 ①解雇権濫用法理
 ②合理的限定解釈
 この2つをごく簡単に説明すると、法律上は会社の権利として認められる行為であっても、裁判所や労働基準監督署から「それはやり過ぎ」と一定の制限がかかることです。例えば「解雇事由」や「懲戒事由」は、原則として会社が自由に定めることができる権利ですが、実際の運用において、「労働者の起こした問題と比較して、その処分は重すぎる」として無効とされることがあります。これは会社が権利を濫用したとしての、解雇権濫用法理にあたります。また、会社が規定した就業規則の内容が広すぎる、例えば、「兼業・副業を全面的に禁止する」との規定について、裁判所が「業務に支障を来たさない範囲での兼業・副業まで禁止すべきでない」と判断することがありますが、これは、会社が定めた「全面禁止」を修正し、「合理的な範囲で解釈すべき」と合理的限定解釈がされたことによります。