《コラム》平成31年度税制改正大綱 消費税編

◆与党大綱、消費増税「確実に実施」と明記
 「消費税対策」が中心に据えられた平成31年度の税制改正。与党税制改正大綱では、「消費税率10%への引上げを平成31年10月に確実に実施する。」と明記され、現政権の堅い決意を表明しています。
 既に30年11月に自民党税制調査会が「消費税率引上げに伴う対策について」の中で対策の大枠を掲げていました。

 ○駆け込み・反動減中小・小規模対策:耐久消費財対策(平成31年改正)
 ○逆進性対策:軽減税率導入
 ○負の所得効果対策:賃金引上げ、幼児教育無償化

◆「複雑となりすぎた制度」環境整備急務
 これが、与党税制改正大綱の「消費税率の引上げに伴う対応」の3項目に落とし込まれました。特に軽減税率導入時の混乱が予想されるため、環境整備が急がれます。
 ①需要変動の平準化に向けた取組み(価格表示・転嫁対策、住宅・自動車の措置)
 ②軽減税率制度の実施(Q&A追加、個別相談、レジ導入支援など)
 ③医療費に係る措置(診療報酬の補てん状況を調査・対策)

◆「屋台でも免税」臨時販売場の出店容易に
 東京オリンピック開催に備え、外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売所制度)が見直され、事業者が地域の祭りやイベントに免税店を出店する際の手続きが簡素化されます(「臨時販売場に係る届出制度」の創設)。現行制度では、屋台など短期間で免税店を出店する場合でも、常設店同様の提出書類(店の見取図、マニュアル、免税対象品目など)が必要で、審査に時間がかかるため、申請を見送るケースも多くありました。この制度の開始は、平成31年7月からとなります。

◆急増する金密輸に対策:買取側控除に制限
 ニュース等で話題の「金密輸」についても対策が講じられます。国外から日本に金を持ち込む場合には、申告を行い、消費税を納める義務がありますが、密輸業者は金を隠して持ち込み、国内買取業者に消費税を上乗せして販売。差益を得ていました。
 これに対し、①密輸品と知りながら行った課税仕入れは仕入税額控除を認めない、②金・白金の地金の課税仕入れについて、本人確認書類の保存を仕入税額控除の要件に加える措置がされました(H31.4~)。

今月の税務トピックス② 税理士法人右山事務所 所長 宮森俊樹

(今月の税務トピックス①よりつづく)

Ⅲ 相続税・贈与税関係
1.相続又は贈与により取得した場合
 仮想通貨については、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値(決済法2⑤)」と規定されていることから、被相続人又は贈与者から相続若しくは遺贈又は贈与により取得した場合には、相続税又は贈与税が課税されることとされます(問15)。
2.仮想通貨の評価方法
 仮想通貨の評価方法は、「評価方法の定めのない財産の評価(財基通5)」の規定に基づき、次のとおりとされます(問16)。
① 活発な市場が存在する仮想通貨は、相続人等の納税義務者が取引を行っている仮想通貨交換業者が公表する課税時期における取引価格によって評価することとされます。
② 活発な市場が存在しない仮想通貨は、その仮想通貨の内容、性質及び取引実態等を勘案し、個別に評価(例:売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する方法)することとされます。

おわりに
 平成30年11月21日に「仮想通貨の計算書(総平均法用)」が国税庁ホームページで公表されています。この計算書は、前述したⅡ4.の「年間取引報告書」に記載された各項目を入力(Excel)すれば簡単に所得金額を計算することができます。
 なお、平成29年分以前の確定申告において売却した仮想通貨の取得価額を移動平均法で計算されていたとしても、平成30年分以後は継続して適用をすればこの計算書によって「総平均法」で計算することもできます(問11)ので、実務上活用して下さい。

今月の税務トピックス① 税理士法人右山事務所 所長 宮森俊樹

仮想通貨に関する税務上の取扱い

はじめに
 近年、ビッグデータ、ソーシャルメディアなどのICTのサービス及びビジネスの進展等を背景にインターネットを通じて電子的に取引される仮想通貨(例:ビットコイン、イーサリアム等)の取引が急増しているようです。
 こうした中、平成30年11月21日に「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(FAQ)、以下単に「FAQ」といいます。」が国税庁から公表されました。
 そこで本稿では、公表されたFAQの概要と実務上の留意点について解説します。

Ⅰ 所得税・法人税共通関係
1.仮想通貨を売却した場合
 保有する仮想通貨を売却(日本円に換金)した場合の所得金額は、その仮想通貨の売却価額から売却した仮想通貨の取得価額及び売買手数料等の経費の額の合計額を控除した金額とされます(問1)。
 なお、購入した仮想通貨の取得価額は、その支払対価に購入手数料等の付随費用を加算した金額とされます(問4)。
2.仮想通貨で商品を購入した場合
 保有する仮想通貨で商品を購入した場合には、保有する仮想通貨を譲渡したこととされ、その所得金額の計算は、前述した1と同様とされます(問2)。

Ⅱ 所得税関係
1.仮想通貨の所得区分
 仮想通貨取引により生じた損益(邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益)は、事業所得又は雑所得に区分されます(問7)。
2.仮想通貨の取得価額の計算方法
 仮想通貨の取得価額は、原則として「移動平均法」で計算することとされます。しかし、継続適用を要件に「総平均法」で計算することもできます(問11)。
3.仮想通貨の必要経費
 仮想通貨の経費の額は、その取引の記録に基づいて業務の遂行上直接必要であることが明らかに区分できるものとされます。例えば、インターネット及びスマートフォン等の回線利用料、パソコン等の減価償却費が想定されます(問8)。
4.年間取引報告書の送付
 平成31年1月末までに国内の仮想通貨交換業者を通じた仮想通貨取引について、①年始数量、②年中購入数量及び金額、③年中売却数量及び金額、④移入数量、⑤移出数量、⑥年末数量、⑦損益合計、⑧支払手数料が記載された「年間取引報告書」が納税者(顧客)に対して送付予定とされています。
 なお、仮想通貨の売却・購入が外貨で行われていた場合の年間取引報告書の各項目の記載は、取引時の電信売買相場の仲値(TTM)で円に換算した金額とされます(問10)。

(今月の税務トピックス②につづく)

(後編)社会保険診療報酬課税の特例とは?

(前編からのつづき)

 例えば、心電図の機械や内視鏡などの医療器具が壊れて除却した場合など、通常は資産損失として計上できるものなども、この特例を選択した場合は、これらの資産損失・減価償却費、専従者給与、材料・消耗品等仕入、貸倒損失などの一切が社会保険診療報酬課税の特例経費に含まれることになりますので、追加での費用計上は認められていません。
 そこで、上記のケースでは、実額計算をして有利か不利かの判定を行い、実額計算のほうが有利であれば、この特例課税は適用しないで計算することができます。

 したがいまして、いつでもこの判定ができるように、概算経費率の計算だけでなく、実額計算も常にしておくことが大切ですので、帳簿、領収書、請求書なども常に保存・管理・記録しておくことが必要です。
 ただし、概算経費を適用する場合であっても、社会保険診療報酬以外の収入に対応する必要経費は実額によりますので、ご注意ください。
 なお同様に、医療法人も社会保険診療報酬課税の特例を適用できます。

(注意)
 上記の記載内容は、平成31年1月4日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

(前編)社会保険診療報酬課税の特例とは?

社会保険診療報酬課税の特例とは、社会保険診療報酬に係る費用を、実際に発生した実額ではなく、一定の経費率を乗じて算出した概算経費を必要経費として算入することを認めるものです。
 具体的には、医業又は歯科医業を営む個人が、社会保険診療報酬が5,000万円以下であり、かつ、その個人が営む医業又は歯科医業から生ずる事業所得に係る総収入金額に算入すべき金額の合計額が7,000万円以下であるときに適用できます。

 必要経費率は、その社会保険診療報酬に係る収入の階層に応じて、2,500万円以下の場合の72%から4,000万円超5,000万円以下の場合の57%までの4段階に区分されております。
 例えば、年間の社会保険診療報酬が4,000万円で、その社会保険診療報酬に係る実額経費が2,000万円の場合、社会保険診療報酬に係る概算経費は2,770万円(4,000万円×62%+290万円)となり、実額経費と比べて所得税計算上は有利になります。
 しかし、事業所得の計算上の資産損失などが生じた場合は、必ずしも概算経費の方が有利だとは言えません。

(後編へつづく)

(注意)
 上記の記載内容は、平成31年1月4日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。

《コラム》平成31年税制改正大綱 個人所得課税(一般)編

◆31年税制改正「消費税対策」が重点に
 平成31年の税制改正大綱では、10月に実施予定の消費税率10%引上げに伴う、駆込み需要・反動減対策(車両・住宅)に重点が置かれ、単年度ベースで1,670憶円規模の減税措置がされると公表されました。
 個人所得課税(金融・証券税制以外のもの)については、次の項目が改正されます。

◆住宅ローン控除の拡充(国税・減税)
 過去の消費増税時に住宅の駆込み需要とその後の販売減を経験していることから、住宅ローン控除が拡充されました。31年10月から32年末に入居する住宅(消費税10%適用)については、控除期間が現行の10年から13年に延長されます。11年目からは計算方法が変わることに注意しましょう。
 1~10年目:住宅ローン年末残高×1%(最大40万円)
 11~13年目:次のいずれか少ない金額
 ①住宅ローン年末残高×1%
 ②取得価額(最大4000万円)×2%÷3

◆空き家の譲渡の特別控除(国税・減税)
 適用期限が4年延長され、老人ホーム等に入所したことにより空き家になって場合においても、一定の要件を満たすものについては、適用の対象となりました。また、所有者不明土地を収用した場合の5,000万円特別控除制度が創設されました。

◆ひとり親(未婚)の非課税(住民税・減税)
 自公で議論となっていたのが、婚姻歴のないシングルマザー等の「寡婦(夫)控除」の取扱い。結論は翌年に持ち越しとなりましたが、次の要件を満たす「ひとり親」の住民税が非課税とされました(未婚男性の「ひとり親」にも適用されます)。
・児童扶養手当の支給を受けていること
・前年の合計所得金額が135万円以下
 なお、所得税の負担が残るため、給付金17,500円(非課税)が年収365万円までの10万人弱を対象に支給される見通しです。

◆その他の改正(ふるさと納税の適正化など)
 その他には、①ふるさと納税の高額返戻品禁止(返戻割合3割以下の地場産品に限定)、②仮装通貨の取得価額の計算方法の明確化(移動平均法又は総平均法)、③申告書の源泉徴収票、特定口座年間取引報告書等の添付不要化・記載事項の見直し、④森林環境税(仮)の創設、⑤公的年金等の源泉徴収見直し等が措置されています。

《コラム》平成31年度税制改正大綱 個人所得課税(金融・証券)編

◆金融庁要望の「NISA恒久化」は持越し
 平成31年度の税制改正大綱では、消費増税への対応に比重がかけられたため、金融・証券税制の分野については、脇に置かれた感があります。金融庁が要望していた「NISA制度の恒久化」「金融所得課税の一体化」などは実現に至りませんでした。
 それでも、①NISAの利便性向上(海外赴任時の継続利用・利用開始年齢の引下げ他)、②投資信託等の内外の二重課税の調整措置、③レポ取引に係る利子の非課税措置の延長、④マイナンバーに関する所要の措置などが改正される予定です。

◆NISA口座保有者が出国した場合の特例
 NISA(一般NISA・つみたてNISA・ジュニアNISA)は、国内居住者の少額投資を非課税とする制度としてスタートしたため、居住者が海外転勤等により一時的に出国する場合には、NISA口座で保有している金融商品は一般口座(課税口座)に払い出されていました。また、帰国後においても、一般口座に一旦払い出された金融商品をNISA口座に戻すことはできませんでした。
 そこで、次の手続きを行った出国者については、国内居住者とみなしてNISA口座を最長5年間にわたり、継続利用できることとしました。
(一時的な出国による場合の特例)
◎継続適用届出書の提出:出国日の前日までに取扱金融機関に転任の命令その他やむを得ない事由により出国する旨等を記載した継続届出書を提出
◎帰国届出書の提出:取扱金融機関に帰国した年月日、非課税口座に再び上場株式等を受け入れる旨を記載した帰国届出書を提出
 なお、出国から帰国までNISA口座の保有はできますが、この間(最大5年間)、新規買い付けはできません。また、その出国につき「所得税の国外転出時課税」を受ける場合には、適用を受けることはできません。

◆NISA利用開始年齢の引下げ・利便向上施策
 民法の成年年齢が引き下げられることに伴い、NISAの口座開設が可能な年齢も20歳から18歳に引き下げられることになりました。平成35年1月1日以後の口座開設より適用されます(経過措置あり)。
 大綱には、その他にもロールオーバー移管依頼書の手続きの簡素化、一般NISAとつみたてNISAの切り替え手続きの簡素化など利便向上の施策が盛り込まれています。

【時事解説】社外取締役の役割 その2

企業の消長は何といっても経営トップの能力に左右されます。したがって、取締役会の最も大きな役割は経営トップの選任にあると言われます。経営トップの選任においても、社外取締役の役割が増大しています。

 我が国において、社外取締役がトップの選任についてアメリカほど重要な役割を果たしていいかどうかには議論のあるところです。というのは、アメリカと日本では経営者を選抜する環境が大きく違うからです。アメリカでは経営者は社内外から広く候補者を募り、選ばれることが通例です。そうした場合、社外取締役が社内外を問わず経営成績を上げる能力を評価して、トップ選任に際して重要な役割を果たすことにそれほど違和感を覚えません。

 しかし、日本では多くの会社で社内からの生え抜きの人材をトップに据えます。そこでは経営能力は当然必要ですが、その他に人柄とか社内の人望といった人格的要素も無視できない要因として存在します。そうした数字に還元できないその会社特有の人間関係まで社外取締役が把握できるのかという点について、やや疑念が残るのです。

 労働市場や経営者市場の流動化が不十分な日本で、社外取締役が経営トップの選任にどのように関与するかは難しい問題です。アメリカのような経営者選抜方法が一般化すれば、社外取締役の役割は重くなるでしょう。しかし、社内出身者がトップに選ばれるという状況が続くなら、社外取締役がトップ選任に果たす役割が定着するまでにはもう少し時間がかかるような気がします。(了)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

【時事解説】社外取締役の役割 その1

上場企業で社外取締役が増加しています。これまで日本企業の取締役は社内の生え抜きがほとんどで、意思決定が内向きになり過ぎると、かねて批判されていました。社外取締役の数を増やし、取締役会に社外の多様な意見を反映させようというものです。そこで、社外取締役の果たすべき役割を投資の意思決定とトップの選任について考えてみます。

 投資の意思決定では、採算性があると判断されれば投資を行い、採算性がなければ投資を行いません。情報量の違いによる若干の相違はあるかもしれませんが、合理的判断をする限り、そこに、社内取締役と社外取締役に本質的な差異は生じないはずです。違いが生じるとしたら、投資できずに余ったキャッシュの使い方にあります。

 社内取締役は入社以来ずっと同じ会社に勤務し、会社に愛着を持ち、多くの仲間が社内にいますから、会社の存続を第一に考えます。会社の外部環境はどのように変化をするか分かりません。ですから、社内取締役はまさかのときに備えて、余剰キャッシュをできるだけ蓄え、社内留保を多く持とうという発想をしがちです。一方、社外取締役は会社内で人生を送ってきたわけではありませんから、株主あるいは一般投資家の利益を社内取締役より強く意識します。そこで、投資に使い切れない余剰キャッシュが生じれば、社内留保よりも配当等の株主還元を優先することになります。

 今まで、日本の企業は社内留保に偏りすぎる傾向があったので、社外取締役の増加が社内留保と株主還元のバランスの改善につながることが期待されます。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

(後編)少額減価償却資産の会計処理と固定資産税の関係に注意!

(前編からのつづき)

 固定資産税は、通常の減価償却ではもちろん課税客体になりますが、一時に損金算入された10万円未満の資産や3年均等償却を選択した10万円以上20万円未満の資産には、固定資産税は課税されません。
 しかし、中小企業者等のみに適用される30万円未満の資産の即時償却を選択した場合は、10万円未満の資産を除いて固定資産税が課税されます。
 したがいまして、少額減価償却資産の会計処理には、固定資産税も考慮に入れた判断が必要になりますので、該当されます方はご注意ください。

 ちなみに固定資産税における償却資産とは、耐用年数1年以上かつ取得価額が10万円以上のものをいい、例えば、エアコン、事務机、看板、冷蔵庫、パソコンなど減価償却している資産をいいます。
 さらに、固定資産税は、減価償却資産について、未償却残高が合計で150万円以上の場合にのみ課税され、合計150万円未満の場合には課税されませんので、あわせてご確認ください。

(注意)
 上記の記載内容は、平成30年12月10日現在の情報に基づいて記載しております。
 今後の動向によっては、税制、関係法令等、税務の取扱い等が変わる可能性が十分ありますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保証されるものではありません。