【時事解説】“水をさす”会計から“棹さす”会計に その1

表現は似ているのですが、その意味するところはまったく異なる言葉があります。その代表的なものに“水をさす”と“掉さす”があります。辞書を引くと“水をさす”は「うまく進行している事などに脇から邪魔をする」ことで、“掉さす”は「調子を合わせてうまく立ち回る」ことだとあります。つまり、「時代の流れに水をさす」と言えば、時代の流れを留める、あるいは逆行する、というような意味ですし、「時代の流れに掉さす」といえば、時代の流れに従う、あるいは一層早めるということになります。

 会計のこれまでの変遷を眺めてみると、“水をさす”会計から“掉さす”会計に変わってきており、 IFRS(国際会計基準)導入が広がっている状況を見ても、その傾向は一層強まっていくように思われます。
 以前の会計における資産評価は取得原価主義が基本でした。貸借対照表の資産に計上される金額は期末時点の資産の時価に関係なく、取得価額のまま変わりません。したがって、償却資産を除いた資産の損益は所有したままでは発生せず、売却したときにはじめて実現します。

 その結果、取得原価主義会計の下では、資産の取得価額と時価との差額である含み損益が発生します。含み損益は決算書に現れないので、経営者の手元に残されます。経営者は自分が好きな時に資産を売却して含み損益を実現し、決算書上に表現することができます。本業の業績が悪いときには含み益のある資産を売却して利益をかさ上げし、逆に、業績が良くて利益が多すぎるときには含み損のある資産の売却により利益を圧縮することも可能でした。つまり、決算書に表現される会社の経営成績を時代の潮流から遮断することが可能で、経営者の裁量である程度コントロールすることができたのです。いわば、時代の流れに“水をさす”会計といえます。(つづく)

(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)

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